
1.
骨髄と末梢血、造血幹細胞
末梢血、すなわち体の中を流れている血液中には大きく分けて3種類の血液細胞がある。白血球は主に免疫を担当しており、細菌やウィルスなどの感染から体を守る役割を果たしている。赤血球は酸素の運搬を担当しており、体の様々な組織に必要な酸素を供給している。血小板は出血を止めるために働く。これらの細胞はまず骨髄の中で作られて、その後末梢血に流れ出てくる。そのため、造血の状態を正確に把握するためには骨髄検査が必要である。また、これらの細胞はすべて造血幹細胞という血液のもとになる1種類の細胞から作られている。

2. 悪性リンパ腫の分類とステージング
血液の中にいる白血球は大きく分けて骨髄球系の細胞とリンパ球系の細胞に分類される。リンパ球系の細胞は成熟すると血管、リンパ管を通って、リンパ節に移動する。リンパ球が異常増殖をして様々な場所に固まり(しこり)を作る病気が悪性リンパ腫である。体の表面(主に頚部、腋窩、鼠径など)のリンパ節がはれることもあれば、体の奥のリンパ節がはれることもあり、時には色々な内臓に浸潤したり白血化(血液にリンパ腫の細胞がみられるようになること)したりすることもある。
悪性リンパ腫は大きく分けてホジキン病と非ホジキンリンパ腫に分類され、さらに、非ホジキンリンパ腫は進行の早い(aggressive)タイプと進行の遅い(indolent)タイプに二分される。これは、腫れたリンパ節(あるいはリンパ節以外の病変部位)を手術で取って(生検:せいけん)、顕微鏡で観察する、病理組織診断によって決定される。(新しいところでは、REAL分類、WHO分類に従う)
この組織分類に応じて、治療後の成績が異なる。すなわち、非常に治りにくく、通常の化学療法・放射線療法だけでは、最終的に死に至る可能性が高い病気か、一般的な治療で高い可能性で治癒が期待できる病気か、または、病気は治らなくても、少なくとも数年は、それほど病気に悩まされることなく暮らしていける病気であるか、という予想ができる。よって、治療方針も、この組織分類を大いに参考にして決定される。
病気の広がりを示す指標がステージである。悪性リンパ腫の診断がついた後、CTスキャンや、ガリウムシンチ、骨髄生検などが行われるのは、ステージを決定する為である。ステージも治療方針の決定の際に重要な因子となる。
(大雑把にいって、横隔膜の上か下どちらかだけであればステージII以下、両側にあればステージIII以上)。
3. 悪性リンパ腫の治療
悪性リンパ腫は、一部分だけに固まりを作っていたとしても、実際には目に見えなくても広い範囲に広がっていることが多く、手術による切除は治療目的としては通常行われない。一方、他の腫瘍と比較して抗癌剤(chemotherapy;
CT)や放射線治療(radiotherapy; RT)に対する反応がよいことが特徴であり、治療の中心はこの二つの方法になる。
1.ホジキン病
発熱、体重減少などの症状がある場合やステージがIII以上の場合は、ABVD療法を始めとするCTを行う(New
England Journal of Medicine1992;327:1478)。
また、巨大な腫瘤がある場合もABVD療法を行い、その後必要に応じて局所にRTを行う。
ステージがIII未満の場合は、ステージIではRTを原則とし、ステージIIではCTを原則とする。(New
England Journal of Medicine 1998;339:1506)
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RTのみの治療後の再発はABVD療法で治療する。65歳以下の初回治療抵抗例及び再発例は自家末梢血幹細胞移植の対象とする(Lancet
1993;341:1051)。
2.非ホジキンリンパ腫
病理診断に基づき、aggressiveとindolentに分類して考える。リンパ芽球性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、成人T細胞性白血病/リンパ腫、バーキットリンパ腫、中枢神経リンパ腫、胃のリンパ腫など、治療方針について個別の検討が進んでいる場合は必ずしも以下に従わない。また、65歳以上の高齢者については全身状態に従い適宜変更する。
●中・高悪性度非ホジキンリンパ腫 (aggressive
lymphoma)
ステージIおよび巨大腫瘤のないステージII・・・当科では、CTとしてCHOP
3コースの後、局所照射 40Gyを行う。(New England
Journal of Medicine1998; 339:21)
その他・・・当科では、CHOPを6コース行う。(New
England Journal of Medicine 1993;328:1002)
当科では、65歳以下で予後予測(International
prognostic index: IPI)(New England Journal of Medicine 1993;329:987)がHigh
or High-intermediateの症例は造血幹細胞移植の候補と考え(Journal
of Clinical Oncology 1997;15:1131)、CHOP 2コース終了後に治療に反応が得られていれば末梢血幹細胞の採取を行う。
再発症例で化学療法に反応性のある場合も同様に造血幹細胞移植の適応と考え(New
England Journal of Medicine 1995;333:1540)、salvage療法(CHOP療法以外の治療)の後に、化学療法とG-CSFによって幹細胞の動員を行い、幹細胞採取を行う。初回治療が無効の場合や再発した場合はECAMを第一選択とし、ECAM無効例は個々に検討する。
●低悪性度非ホジキンリンパ腫 (Indolent lymphoma)
主にIndolent lymphomaの代表例である、濾胞型リンパ腫について述べる。濾胞型リンパ腫は、一般には緩徐に進行し、最終的にはリンパ腫病変の為、臓器障害などによる自覚症状をおこす。約半数の場合、濾胞型リンパ腫が上記のようなaggressive
lymphomaに変化(トランスフォーメーション)し、急速に病変が増大する。
限局している(stage IまたはII)場合には、治癒の可能性を考え、放射線療法の適応を検討する(Journal of Clinical Oncology 1996;14:1282)。
多くの場合にはstageIII以上で発見される。濾胞型リンパ腫では、化学療法を行った場合と、watch
and wait、すなわち、はじめは化学療法を行わず、腫瘍による臓器障害や自覚症状が出現した場合に初めて治療を行う場合とを比較して、生存率や、aggressive
lymphomaへのトランスフォーメーションの頻度などに差がみられない。(New
England Journal of Medicine 1984;311:1471)今までのところ原則として、当科ではwatch
and waitの方針をとっている。治療が必要になった場合、あるいは本人の希望に応じて、1st
lineとしては上記CHOPからdoxorubicinを除いた治療を行っている(Journal
of Clinical Oncology 1993;11:644)。
再発例、治療抵抗例は、年齢、全身状態や、本人の希望に応じて、治療方針を検討する。この場合の治療法としては、フルダラビンを用いた2nd
lineの化学療法、抗体療法(rituximab; リツキサン)を組み合わせた化学療法、造血幹細胞移植が挙げられる。近年、CD34
positive selectionを利用した自家移植や、ミニ移植が開発され、造血幹細胞移植の役割が今後広がる可能性がある。
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(Blood 1995;86:1460)
4.悪性リンパ腫に対する造血幹細胞移植
通常の化学療法では十分な効果が得られない場合、大量の抗癌剤を投与し、その副作用である壊滅的な骨髄抑制を造血幹細胞を移植することによってサポートするのが造血幹細胞移植である。大量抗癌剤の副作用、免疫力低下による様々な感染症、他人からの移植では生着した骨髄が患者本人の体を他人と見なすことで攻撃するGVHDなど、多くの合併症があり、その合併症による死亡も自家移植で10%程度、同種移植では20〜40%生じる。
造血幹細胞は通常は骨髄の中にあるが、化学療法を行った後の骨髄回復期や造血因子(白血球を増やす薬など)を投与した後には末梢血中にも増えてくることが知られている(末梢血幹細胞)。自分自身の造血幹細胞をあらかじめ採取・凍結保存しておいて用いる場合を自家移植、他人から移植する場合を同種移植と呼ぶ。年齢の上限は目安として、自家移植は65歳程度まで、同種移植は50〜55歳程度まで可能である。
1:自家末梢血幹細胞移植
悪性リンパ腫では、比較的重篤な治療の合併症の少ない、自家末梢血幹細胞移植が通常行われる。
<対象>
1)
ホジキン病、中等度・高悪性度非ホジキンリンパ腫の初回治療抵抗例・再発例のうちサルベージ治療に反応する場合
2) IPIなどにより高リスクの中等度・高悪性度非ホジキンリンパ腫、(およびホジキン病)
3) その他
<治療の流れ>
末梢血幹細胞の動員:本来、血液を作る元になる細胞(幹細胞)は末梢血中には出てこない。そこで、化学療法をおこなった後、造血因子(G-CSF)を投与して、回復期に数時間かけてアフェレーシスを行い、これを採取した後、凍結保存する。患者の年齢・性別・治療歴によって幹細胞が十分とれない場合があり、この場合には自家骨髄採取を行うこともある。また、骨髄あるいは末梢血中にリンパ腫細胞の出現が認められた場合は腫瘍を取り除くためにCD34 positive selectionと呼ばれる幹細胞だけを集める方法を行う。
大量化学療法:各種の抗癌剤を組み合わせた治療を数日間かけて行う。場合によっては全身放射線照射を行うこともある。その後、凍結保存していた幹細胞を解凍して、輸血のように輸注する。大量化学療法による様々な合併症がおこることがある。
治療後:白血球減少期に感染をおこした場合には、抗生剤等で治療をする。貧血・血小板減少に対しては輸血が必要になる場合がある。大量化学療法により、白血球が非常に減るが、移植片が生着すると、速やかに回復する。
2:悪性リンパ腫に対する同種移植
サルベージ化学療法が無効の場合は自家移植を行っても、一般には長期生存は期待できない。HLA一致同胞ないしHLA一座不一致までの血縁者がいる場合は同種骨髄移植を考慮するが、その移植関連死亡率は30%程度と少なくない。(Journal of Clinical Oncology 1992;10:1690, Blood 1994;84:1050)。
これらの他にも、非ホジキンリンパ腫の中には、大量化学療法および自家幹細胞移植では長期生存例が認められていない種類のものもあり、このような場合には患者の年齢、合併症、疾患の状態、本人の希望に応じて同種移植の適応を検討する。この場合、同種移植により、移植片対腫瘍(GVL)効果を期待している。また、大量化学療法の前処置による移植関連死亡の危険性がいことや、必ずしも疾患の治癒に直接結びつかない可能性が考えられており、前処置を軽減した、ミニ移植もリンパ腫に対して行われるようになりつつある。
以下にホジキン病の再発あるいは初回化学療法抵抗例に対する自家骨髄移植成績および非ホジキンリンパ腫化学療法感受性再発例に対する自家骨髄移植成績を示す。
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(Lancet 1993;341:1051) (New England Journal of Medicine 1995;333:1540)