大阪府立成人病センター
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膀胱がんの解説
  1. 1.概略
  2. 2.症状
  3. 3.診断
  4. 4.膀胱がんの分類
  5.  A.表在性膀胱がん
  6.  B.膀胱上皮内がん
  7.  C.浸潤性膀胱がん
  8. 5.治療
  9.  A.手術療法
  10.   イ.内視鏡手術(経尿道的腫瘍切除術)
  11.   ロ.膀胱全摘出術
  12.   ハ.尿路変更
  13.    a.尿管皮膚婁
  14.    b.回腸導管
  15.    c.人工膀胱造設
  16.   ニ.膀胱部分切除
  17.  B.化学療法(要するに抗がん剤を使った治療です)
  18.  C.膀胱内注入療法
  19.  D.放射線療法
  20. 治療成績
  21.  1.膀胱がんの治療成績
  22.  2.浸潤性膀胱がんの治療成績

1.概略
    膀胱腫瘍とはその名の通り膀胱に出来た腫瘍のことですが、そのほとんどが悪性腫瘍(つまりがん)です。人口10万人あたりの発生率は約5〜8人で、男性のほうが女性より約4倍なりやすいことが知られています。また、50歳をこえると発生頻度は高くなり60〜70歳台がそのピークとなります。
    膀胱がんは大きく分けて上皮内がん、表在性膀胱がん、浸潤性膀胱がんの3種類のタイプが存在します。上皮内がんは表在性がん、浸潤性がんに合併することや、上皮内がん単独で発生することがあります。膀胱粘膜内にばら撒かれたようにがん細胞が存在し、内視鏡で観察してもなかなかわかりにくいことが特徴です。表在性膀胱がんとは、膀胱内の表面すなわち粘膜やその下の粘膜下層までにがんがとどまっており、一般に転移を起こすことは少なく、内視鏡手術で治療が可能です。命にかかわることは少ないのですが、膀胱内に何度も再発する事があります。浸潤性膀胱がんは、膀胱の筋肉や膀胱外にまで根を張るように発育し、また、転移も生じやすく生命を脅かす疾患です。膀胱がんの70〜80%は表在性膀胱がんです。以下の図に示すように、膀胱がんの浸潤度はTisからT4に分類されます。
Tis:上皮内がん
Ta :浸潤なし
T1 :粘膜固有層までの浸潤
T2 :筋層までの浸潤
T3 :膀胱周囲組織へ浸潤を示すもの
T4 :隣接臓器への浸潤しているもの


2.どのような症状があれば膀胱がんを疑うのか?
    一番多い症状は血尿で、通常は目で見てもわかる痛くも痒くもない血尿が突然生じます。しばらくすると血尿が止まるので大したことはないと放置する人や、血尿が出るなんて進行性の膀胱がんではないかと病院で検査するのが怖くなって病院へ行くのを先送りする人が結構います。しかし、血尿は膀胱がんの最初の症状としては最も多く、また膀胱がんの多くは後で説明しますが表在性のがんで、早く治療すれば膀胱を取ったり(つまりおしっこの袋をつるしたり)する必要のないことがほとんどです。やはり一番大事なことは血尿を見ればすぐに専門の医者に見てもらうことです。また検診などで、尿細胞診(おしっこの中にがん細胞が混じっていないかどうかを調べる検査です)や超音波などをされて見つかることも多くなってきています。
3.診断
    基本的には内視鏡によってほとんどの場合診断がつきます。尿細胞診も補助的価値はありますが、比較的たちのいいがんでは陽性に出ないことが多く内視鏡に代わりうる検査ではありません。しかし、上皮内がんでは内視鏡ではわからないことが多く、尿細胞診が頼りになる検査となります。
    画像診断としては、排泄性腎盂造影は必須となります。これは造影剤を点滴や注射で血管内に入れ造影剤が尿の中に再度濃縮して出てくるといった性質を利用し腎盂(腎臓で造られた尿がまず出てくるところです)、尿管(腎臓から膀胱まで尿を運ぶ管です)といった部位を造影する検査です。膀胱がんでは、しばしば同じようながんが腎盂や尿管に出来ていることがあり、これらは通常の内視鏡検査では分からないからです。
    また、浸潤性膀胱がん(後述)が疑われる場合には、膀胱のMRIががんの深さを見るのに有用です。他にリンパ節や遠隔臓器(肺、肝臓、骨など)に転移がないか胸部レントゲン、腹部や胸部CT、骨シンチ、超音波検査などを行います。
4.膀胱がんの分類
    A.表在性膀胱がん

    膀胱がんの多くがこのタイプに分類されます。性質は比較的おとなしいことがほとんどで、たいていの場合内視鏡による手術で治療することが出来ます(つまり膀胱を取る必要はありません)。しかし、もともと表在性のがんでも長い間ほっておくと筋層へと浸潤していきます。つまり、血尿など膀胱がんを疑う症状があったときにはすぐに泌尿器科の専門医のところへ診察に行くべきです。表在性膀胱がんは基本的にはたちの良いがんではあるのですが、ひとつ厄介なことがあります。それは再発です。他のがんで再発というともともとのがんより悪いことが多いのですが、膀胱がんではほとんどが前回同様の表在性がんです。したがって内視鏡手術が可能ですので、手術後も定期的な検診つまり早期発見早期治療が必要となります。ちなみに、単発性の場合の再発率は約30〜40%、多発性の場合の再発率は約70〜90%といわれています。
    B.膀胱上皮内がん

    膀胱の粘膜にがん細胞がばら撒かれているようながんです。他の臓器の上皮内がんは非常に早期のもので治療成績も良いのですが、膀胱の場合少しこれらとは違い少し厄介な病気です。膀胱がんは他のがんとは違い膀胱の中の色々な場所に出来ることが多く見られますが、上皮内がんも例外ではありません。また、膀胱の上皮内がんは内視鏡で見ても正常な粘膜と、がんのばら撒かれている粘膜との区別がはっきりとはつきません。つまり、がん細胞が膀胱粘膜のどこに潜んでいるかわかりません。また、進行は初期の段階では比較的遅いのですが、数年内に膀胱粘膜より深く(粘膜下層、筋層)へ浸潤し(いわゆる浸潤がんとなり)、転移したりします。治療は目に見えないがんと闘うことになり、内視鏡手術で完全に取りきることは出来ません。このため、第一選択としては膀胱の中に薬(薬剤としてはBCGを用います)を注入し膀胱粘膜全体に治療を施すことになります。BCG注入療法で完全にがんがなくなる可能性は約70%です。しかし、BCG注入療法が無効な場合膀胱全摘出術が必要となるのが実情です。
    C. 浸潤性膀胱がん

    膀胱粘膜、粘膜下層を越えて筋肉の層以上の深さにまでがん細胞が進んでいる(浸潤している)がんです。一般的にがん細胞の顔つきが悪いことが多い(組織の異型度が高い)のが特徴で、深ければ深いほど、リンパ節転移や他臓器への転移を起こしていることが多く、予後も悪くなります。
    転移がない浸潤性膀胱がんに対する標準的治療法は膀胱全摘除術です。しかしがんの深さが深いほど、各種画像検査では分からない小さな転移がある可能性が高くなります。そのため、膀胱の外までがんが浸潤している場合、手術前または後に抗がん剤の全身投与を行うことが一般的です。当院でも、患者さんの体力その他が許せば全身抗がん剤療法を行っています。また、膀胱付近のリンパ節のリンパ節転移のみで他の部位に転移がない場合には膀胱全摘除術と全身化学療法の組み合わせで治癒する可能性があります。
    また、当然ですが膀胱を摘出すると、「尿をためておく袋」がなくなりますので、何らかの尿路の変更が必要となります。これを尿路変更術と呼びます(後述)。
    また、その他の治療オプションとして、膀胱へ入っている動脈を詰めて腫瘍への血液を遮断したり、動脈内に直接抗がん剤を注入したりする方法があります。最近の技術の進歩に伴い腫瘍へ行く血管だけを選択的に操作できるようになってきており、合併症が少なく行えるようになってきました。それに放射線療法を追加する動注化学・放射線療法により膀胱を保存する試みもなされています。
    肝臓や肺、骨などに転移(遠隔転移)がある場合は根治的な治療は難しいのが現状です。化学療法は全身のがん細胞に効くため第一選択としています。しかしながら長期の生存を得ることは難しいため、なるべく自宅で過ごせるように薬の組合せを考えながら施行しているのが現状です。しかし、それでも化学療法にがんが反応しなくなった場合は、痛みや血尿など局所コントロールのために、放射線療法、動脈塞栓療法などを行いなるべく患者さんのつらさを軽減するような治療を行っています。
5.治療
    A.手術療法

      イ.内視鏡手術(経尿道的腫瘍切除術)

      この方法は表在性膀胱がんに対する治療となります。ただし、膀胱上皮内がんや浸潤性の診断のためにも行う必要があります(がん細胞が上皮内に撒かれていないか?がんが深くまで浸潤していないか?それらのがんは本当に移行上皮がんなのか?など知っておく必要があります)。腰椎麻酔をかけて尿道から膀胱に内視鏡を入れて観察し電気メスで腫瘍を切り取るまたは焼き尽くす方法です。

      ロ.膀胱全摘除術

      膀胱上皮内がんでBCG療法が無効なもの、浸潤性膀胱がんの治療としては膀胱を全部取ることが標準的な治療法です。膀胱がんは見かけの腫瘍だけを切除しても他の膀胱粘膜にがん細胞が潜んでいることが多く、基本的には膀胱を全部取る必要があります。また膀胱だけでなく男性では前立腺、精嚢(せいのう)、女性では子宮も同時に摘出します。また骨盤内のリンパ節も摘出します。また、尿道も摘除することがあります。いままでこの手術を受けると男性では、手術後にインポテンツになったのですが、それを防ぐ手術方法も進歩してきています。当院では可能であれば勃起機能の温存手術を行っています。ただし、前立腺、精嚢をとってしまうため、射精は全く不可能になります。

      ハ.尿路変更

      膀胱を摘出した後は、「尿をためておく袋」がなくなりますので、何らかの尿路の変更が必要となります。これを尿路変更術と呼びますが、大きく分けて3つの方法があります。

        a.尿管皮膚瘻

        尿管を直接おなかのの皮膚につなぐ手術です。腸管を使わないため手術としては簡単であり、古くより行われている方法で手術による合併症はほとんどありません。欠点としては尿管が狭くなることがしばしば見られ、カテーテルを留置し定期的に交換しなければならないことがあります。また、細菌が腎臓へと逆流し腎盂腎炎を起こすなどし腎臓の働きが悪くなったりすることがあります。このため、当院では積極的にこの尿路変更を行うことはありませんが、高齢者や他の合併症のため手術の侵襲に耐えられないときや、腸を使うことが出来ない時などにはこの方法を用いることもあります。

        b.回腸導管

        小腸の一部約15cmを遊離させ、これの一方の端を閉じるとともに尿管を吻合し、反対側を右下腹部の皮膚に縫いつけて外に出す方法です。1940年代よりこの方法は行われており合併症も比較的少ないため、現在最も標準的に行われている手術です。しかし、この方法では回腸に尿を貯めておくことは出来ないため、たえず尿が流出する尿を貯めておく袋をお腹に貼っておかなければなりません。

        c.人工膀胱造設

        腸を60cmほど開いて丸く縫い合わせて尿を貯める袋(つまり人工膀胱)をつくりその出口を直接尿道につなぐ方法です。これは、今までと同じように自分で排尿できることが特徴です。尿が溜まったときには、自分のお腹に力を入れて排尿します。手術の手技自体は多少複雑であり手術時間も多少かかりますが、お腹に尿をためる袋をつるす必要なく、自分で排尿できる点で優れています。
        この手術では尿道を残すため尿道に膀胱がんが再発する危険性が高い場合は適応になりません。従って、手術の前に尿道などの粘膜にがん細胞が潜んでいないかを生検で確認し、尿道に膀胱がんが再発する危険性が低いと考えた場合のみ適応としています。また、高齢などの理由で自分での排尿管理が困難と思われる場合ではこの手術の適応とはなりません。
        合併症としては排尿困難や尿失禁の可能性があります。お腹に力を入れることではうまく排尿できない場合があり、自分でカテーテルを用い導尿することが必要となることがありますが、現在当院ではほとんどそのような方はおられません。また、尿漏れに関しては手術手技が上達し現在普通の生活で尿が漏れることはほとんどありません。ただ人工膀胱に尿をためすぎると、次第に人工膀胱の体積が大きくなりすぎうまく排尿できなくなることがあります。このため定期的に排尿をし膀胱にあまり尿をためないようにしなければなりません。この手術の大きな欠点は、夜間も3回ぐらい排尿をしてもらう必要があることです。昼間はなんとなく尿がたまった感じが分かるのですが、夜間は分からないため少し寝過ごすと尿漏れを起こすことがあります。
        膀胱全摘では今まで勃起に関する神経や血管を損傷し、術後勃起不全に必ずなりましたが、この手術ではこれらの血管や神経を残すことが出来ますから勃起機能の温存手術が可能です。バイアグラを用いますと半数以上の方で性交が可能です。
        このように、トータルで考えると生活の質の優れた手術であり当院では可能であればこの手術を第一選択として行っていますが、この術式が広まってから歴史が浅いため長期成績がありません。しかし、尿道再発の可能性が少ない症例(つまり比較的たちの良いがん)や若年者の症例に行っているため、当院での術後5年生存率は約78%と大変優れたものとなっています。

      ニ.膀胱部分切除

      膀胱部分切除は膀胱のがんのあるところだけを切除する手術です。膀胱がんの性質として、一見正常と思える膀胱粘膜よりがんが再発するということがあり膀胱の縫合部位に再発をすると診断がしにくい上に治療も困難となります。従って、がんの根治性を考えると標準的な治療とはいえません。しかし、体力的やその他の理由により膀胱全摘除術が困難と思われるときにはこのような術式を用いることもあります。

    B.化学療法(要するに抗がん剤を使った治療です)

    手術療法は局所療法、つまり取ってしまった部分のがん細胞はなくなるのですが、取れなかったがんに関してはまったく治療していないことになります。明らかに転移のある場合はもちろん、各種画像では分からなかったような小さな転移が考えられる場合、手術で取った膀胱の断面にがん細胞があった場合(つまり取り残しがあると考えられるような場合)などは全身に効くような抗がん剤治療が必要と考えられています。
    全身化学療法としてはシスプラチン、メソトレキセートという抗がん剤を中心とした多剤併用療法が一般的でありその有効率は60-70%と言われていますが、手術をせずに抗がん剤だけで完全に治る可能性は5%程度であります。
    当院では主にシスプラチン、メソトレキセート、エピルビシンの3剤を用いた化学療法を行っています。主な合併症として吐き気、嘔吐(これが一番つらい症状です)、脱毛、白血球減少(ばい菌に対する防御が弱くなります)、血小板減少(出血しやすくなります)、腎機能の低下、末梢神経障害(手足のしびれなど)などがあります。腎機能障害、末梢神経障害などは化学療法終了後も残ることがありますが、他は化学療法施行中の問題であり化学療法終了とともにほとんど問題とならなくなります。また最近は良い吐き気止めの薬や白血球を増やすような注射もあるため、かなり安全に行える治療となっており、ほとんどの場合化学療法終了後それまでと変わらない生活を送れます。

    C.膀胱内注入療法

    膀胱内に抗がん剤やBCG(いわゆる弱毒性結核菌です)を注入してがんの治療あるいは再発予防をはかる治療です。治療の対象となるのは膀胱上皮内がんであり、BCGを用いることになります(膀胱上皮内がんの項も参考にして下さい)。その他は表在性膀胱がんの経尿道的手術後の再発予防としてこの治療を行うことがあります。副作用としては、頻尿・排尿痛などの膀胱刺激症状はかなりの確率で起こるのですが、BCGは抗がん剤の膀胱内注入より症状が重く、発熱や、ひどい場合には結核感染症、高度なアレルギー反応、萎縮膀胱(膀胱が炎症により小さくなり使い物にならなくなります)などを生じることがあり死亡例も報告されています。このように副作用もあるため、われわれは、再発予防としては再発を頻繁に繰り返す症例を慎重に選び膀胱内注入療法を行っています。

    D.放射線療法

    膀胱がんの放射線に対する感受性は、各種がんの中で中等度といわれています。つまり、放射線療法は効果のある治療ではあるけれど、放射線療法だけでは膀胱がんが治りにくいということです。浸潤性膀胱がんに対して放射線、抗がん剤、内視鏡手術を組み合わせて膀胱の温存を図ることがありますが、これは基本的に局所に対する治療であり全身治療ではありませんので当院では積極的に行ってはいません。

治療成績


1.膀胱がんの治療成績

    当センターには毎年約60名の膀胱腫瘍の新しい患者さんが来られています。再発患者さんと合わせて年間約150例の経尿道的膀胱腫瘍切除術を施行しています。この手術で輸血等を含め重篤な合併症はほとんどありません。
    また年間15〜20例の膀胱全摘除術を行っています。近年は尿路変更として基本的には人工膀胱増設(男性の場合には勃起機能温存)手術を行い、患者さんの生活の質の向上を心がけています。また、手術による死亡例はこの10年は1例もありません。以下に当科での膀胱全摘除術の手術成績を示してます。
     
    尿路変更の方法回腸導管 人工膀胱
    手術時間(平均) 362分 405分
    出血量(中央値) 1365ml 1115ml
    5年生存率 65% 78%

    尚、可能であれば手術前に800mlの自己血を用意して手術を行いますので(自分の血をあらかじめ採っておきます)、他人の血液の輸血を必要とする症例は人工膀胱造設群では約15%です。

2.浸潤性膀胱がんの治療成績

    生命にかかわるのは浸潤性膀胱がんのみですので浸潤性膀胱がんの当院での治療成績を参考までにお示しします。
     
    リンパ節転移のない場合の5年生存率73%
    深達度別には T2 82%
    T3 51%
    T4 30%
    リンパ節転移のある場合の5年生存率 33%


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