卵巣がんの治療の治療はまず手術を行い、たとえ完全に摘出できなくても出来るだけ腫瘍を取り除き、術後に化学療法を行うのが基本です。卵巣がんは悪性腫瘍のうちでも化学療法がよく効く疾患ですが、組織型の種類によって効く薬が違っていますので、たとえ手術で取り除くことが不可能でも手術によって組織型を診断して抗がん剤を選択する必要があります。 1) 表層上皮性卵巣がんの治療(図1) 図1に進行期ごとの治療の基本を示しましたが、すべての進行期で手術と化学療法を組み合わせた治療を行うのが原則です。
イ)手術療法 漿液性腺癌、粘液性線癌、類内膜腺癌、明細胞腺癌などの表層上皮性のがんに対する基本的な手術術式は腹式子宮単純全摘出術+両側付属器切除術+骨盤および傍大動脈リンパ節郭清術+大網切除術(子宮と両側の卵巣・卵管を全部摘出し、転移の可能性がある骨盤内および大動脈周囲のリンパ節を摘出し、さらに転移の頻度が高い大網を切除する)ですが、進行期がIa期で将来妊娠を希望される場合では、明細胞癌以外のがんでは病巣が存在する側の卵巣と卵管の切除のみを行う場合もあります。 また、III期以上に進行したがんで基本術式が行えないような場合でもできるだけ腫瘍を摘出し、残った腫瘍を小さくすることが、その後の化学療法の効果を高めることになります。
ロ)化学療法 表層上皮性のがんに対する化学療法は白金製剤(シスプラチン、カルボプラチン)にいくつかの抗がん剤を組み合わせて行います。 1970年頃から最近まではCAP(シスプラチン+アドリアマイシン+シクロフォスファミド)、CP(シスプラチン+シクロフォスファミド)、JP(カルボプラチン+シクロフォスファミド)などが主に用いられてきました。 最近になってタキソール、タキソテールなどのタキサン化合物と白金製剤を組み合わせたTP(タキソール+シスプラチン)、TJ(タキソール+カルボプラチン)がCAP、CPなどよりも一次効果だけでなく生存率の点でも優れていることが明らかにされ、TPあるいはTJが表層上皮性卵巣がんの第一選択の治療法となっています。 化学療法の副作用はいずれの方法でも投与前後の吐き気や嘔吐、全身倦怠感、脱毛、四肢や関節のしびれや痛みが主な自覚症状で、他覚的には骨髄抑制(白血球減少、血小板減少)が10−14日目に見られ、程度が強い場合にはG-CSFと呼ばれる白血球の増加を促す注射や血小板の輸血が必要になる場合もあります。 図1のようにIa期では手術のみで治療を終了するのがほとんどですが、Ib期、Ic期では3-4週おきに3-6回、II期以上の例では5-6コース投与します。 表層上皮性のがんのうち漿液性腺癌、類内膜腺癌は進行例でも化学療法の効果がみられますが、粘液性線癌と明細胞腺癌は進行例では有効な薬剤がなく、これらのがんの予後が不良な原因となっています。
2) 胚細胞性腫瘍の治療(図2) 肺細胞性腫瘍のうち胎児性がんや卵黄嚢腫瘍は白金製剤を中心とする化学療法が、また未分化胚細腫は化学療法と放射線療法がよく効くことと、10−20才代の患者さんがほとんどで未婚・未産のことが多いため、進行した症例でも手術はできるだけ腫瘍のある側の卵巣・卵管の切除に留め、術後にMEP、VACなどの化学療法を行うのが一般的であり、多くの例で妊娠の可能性を温存して治癒が得られています。 なお、化学療法はAFP、hCG、LDHなどの腫瘍マーカーが正常になったから2−3コース追加するのが一般的です。
日本全体での卵巣がんの集計は3年前に登録が開始されたばかりで、まだ治療成績は出ていません。そこで、世界産婦人科連合(FIGO)に世界中の主な施設より登録された成績と当院の成績を示します。
1) FIGOによる全世界の治療成績 i. 治療成績の年次推移(悪性群の5年生存率(%)
2) 当院の治療成績(1993-1995年度治療例:悪性群のみ) 症例数が32例と少なく、他施設との比較は問題がありますが、臨床進行期別と組織型別の治療成績を示します。漿液性腺がんの成績が他の組織型のがんに比べて悪いのは進行期III期以上の例が多いためです。