外科的治療 食道癌が粘膜をこえて粘膜下層より深くもぐり込んでいる場合には、原則的に手術が必要になります。手術は、食道の病巣の完全切除と癌が転移しているかもしれないリンパ節を十分な範囲取り去ることから成ります。手術方法は食道癌の発生部位により異なり、頚部・胸部の上半分に病変がある場合には頚・胸骨(時には腹部も)を切開する手術を行います。胸部の下半分や腹部に病変がある場合には胸(右側の乳首の下あたりを肋骨に沿って横に切る)・腹部(時には頚部も)を切開する手術を行います。このように食道癌の手術は頚・胸・腹部におよぶ広範囲なものとなります。また、食道を取り去った後には胃(すでに胃を手術しておられる方には小腸や結腸)を持ち上げ、食べ物が通る経路を再建します。これまでは持ち上げた胃を頚でつなぐことが多かったのですが、われわれの施設では胸の中の上の方で胃をつなぐことにより、手術後の良好な食事摂取を可能にしています。
放射線・化学療法 食道癌が気管や大動脈へ直接浸潤しておりすぐには手術で取り去ることが難しい場合には、放射線と抗癌剤(化学療法)を組み合わせた治療を行います。治療に要する期間は4-6週間くらいとなります。その後は、手術を行う方と抗癌剤で維持療法を行う方に分かれます。 また、食道癌が粘膜もしくは粘膜下層にとどまっており・リンパ節転移もなさそうな方には、手術を行わず放射線と抗癌剤を組み合わせた治療も選択肢の1つとなります。われわれの施設が国立がんセンターと協力して行った研究では、現在までのところ手術に劣らない成績が得られていますが、もう少し先でないと確定的なことは分かりません。
術前化学療法 CT検査や超音波検査により、頚・胸・腹部のリンパ節がるいるいと腫れているような場合には、手術に先立ち抗癌剤治療を行うことがあります。
術後化学療法 手術で取り去ったリンパ節に癌が転移していたものが多かった方には、退院後外来で抗癌剤治療を行います。
日本食道疾患研究会が1988年から1994年までに全国で食道癌の手術を受けた方9000人あまりを集計した結果では、食道癌で手術を受けた人の5年生存率(5年間生きている人の割合)は、食道癌にかかった人すべてをひとまとめにすると35.5%、病期(stage)別では 0: 69.2%, I: 58.0%, II: 47.1%, III: 32.8%, IV: 14.7%と報告されています。
肺合併症 手術中右側の肺をへしゃげさせる・肺に行く神経や動脈のまわりのリンパ節を取り去る・手術後の傷の痛み などにより術後十分に咳をして痰を出すことが困難になり肺炎をおこすことがあります。術後すぐは飲み込むことも多少障害されるため、唾液や食べ物を誤飲(気管にたれこむこと)しやすく、これも肺炎の原因となります。われわれの施設では術前から口腔ケアや嚥下(飲み込むこと)指導を行い、術後の肺炎予防を積極的に行っています。
反回神経麻痺 声帯(喉仏の奥にあり声を出す機能をつかさどっている)に行く反回神経沿いのリンパ節を取り去るため、術後反回神経麻痺がおこることがあります。嗄声(声がかすれること)がおこり、話し声が多少聞き取りにくいと人から言われたりします。半年くらいは様子を見ますが、それでも回復してこない場合は耳鼻科的な処置が必要になることがあります。また、これは誤飲の原因ともなります。
縫合不全 食道を取り去った後に持ち上げた胃(場合により小腸や結腸)を、頚や胸の上の方で縫い合わせたところから唾液や食べ物が漏れることを言います。頻度としては5%くらいで、多くは術後1週間前後におこります。術後絶食期間が2-3週間に伸びますが、多くの場合はそれで治ってしまいます。
その他 術後2-3週を過ぎてからは、吻合部狭窄(胃を頚や胸の上の方で縫い合わせたところが狭くなる)、消化液や食べ物の口元への逆流、癒着性腸閉塞(手術で癒着した腸において食べ物の通過が悪くなること)などがおこることがあります。
退院後2週間目、1-2ヶ月目に外来に来ていただき、入院生活から自宅での生活にスムーズに移行できているか、食事の摂取量はどうか、肺炎などの症状がないかなどについてお聞きします。 以後は原則3ヶ月毎の外来受診となり腫瘍マーカーも含めた採血検査を、6ヶ月毎に転移や再発の有無を検索するためにCT検査や超音波検査を行います。 内視鏡検査も年に1回行い、口・のど・一部残っている食道・胃などに新たに病気が出てきていないか検査します。 病期によっては、外来での抗癌剤による治療や短期間の入院による抗癌剤治療を行うこともあります。 また転移・再発が認められた場合には、外科的治療・放射線治療・化学療法などを組み合わせた最適の治療を行います。