気道(肺)や消化管など、体の外界と通じている部分から発生する悪性腫瘍をがん(癌腫)といいますが、骨や軟部組織(筋肉、脂肪や神経など)から発生する悪性腫瘍は一般に肉腫とよばれ区別されています。
骨軟部肉腫はがんと比べると発生頻度の低い稀な悪性腫瘍です。骨から発生する悪性腫瘍の中で最も発生頻度が高く、一般に広く知られている骨肉腫であっても人口100万人あたり数人の発生率しかありません。ひとくちに骨腫瘍、軟部腫瘍といっても種類(病理学的分類)が多彩であり、発生部位も四肢から体幹部まで様々です。さらに、骨軟部肉腫の特徴として、がんでは比較的高齢者に多く発症するのに対し、肉腫は若年者でも発症します。骨肉腫が10代の若者に多く発症することは有名です。
骨軟部肉腫に対する治療はまず手術が第一選択です。四肢の場合、以前は患肢切断術が一般的でしたが、近年では診断や手術の技術が向上したことや、術前化学療法(抗がん剤)を行うことにより患肢が残せる手術も可能となってきています。化学療法は近年、目覚しく進歩しましたが、化学療法だけで治癒させることは困難です。放射線治療が手術に加えられることもありますが、多くの骨軟部肉腫は放射線が効きにくく、放射線治療だけでは病巣部の治癒は難しいといえます。近年大きく進歩している骨軟部肉腫の治療でありますが、手術が難しいと判断された症例、特に、体幹部(骨盤や椎体)の症例では有効な治療法が少ないというのが現状です。また、仮に手術ができたとしても、体幹部肉腫の場合には術後に歩行や排泄などの点で大きな機能障害が残る可能性があります。
骨軟部肉腫に対する炭素イオン線治療の利点は、「放射線を病巣に集中してかけられる」ということと、「腫瘍細胞を殺す力が強い」ということにあります。炭素イオン線治療では病巣部に線量を集中させ、周囲にある正常組織の放射線によるダメージを少なくすることができます。そのため、通常の放射線治療(主にX線)に比べ大線量を安全に病巣部にかけることができます。また、炭素イオン線は通常の放射線にくらべ2-3倍の抗腫瘍効果をもつといわれています。そのため、これまで通常の放射線治療では制御できなかった骨軟部肉腫のような腫瘍に対しても優れた効果を発揮できると期待されています。
当院では、手術のできない骨軟部肉腫に対し1996年から炭素イオン線による臨床試験(第I/II相試験)を開始し、2000年3月までに57名に治療を行いました。次に2000年4月から2003年11月まで線量固定による新しい臨床試験(第II相試験)を行い115名が治療をうけました。いずれも患者さんには書面による説明を行い同意を得た後、参加していただきました。解析が行われている2000年4月から2003年2月までの78名(86病変)の治療成績は現段階で90%の局所制御率(照射した部位に腫瘍が再発しないこと)が得られています。これらの症例の多くが手術のできない症例であることを考慮すると非常に良好な成績と考えられます。
炭素イオン線治療が線量集中性にすぐれていても、腫瘍と極めて近い部位への照射は避けられません。臨床試験開始当初の症例では10%前後の病巣部において腫瘍に接する皮膚の炎症が経験されました。しかし現在では照射法に工夫を加えそのような皮膚の障害もほとんど発生しておりません。一回の治療は数十分同一体位を保持している間に終了し、苦痛はほとんどありません。治療期間中も治療により体力を消耗することもなく、体調にあわせ外泊も可能です。治療後も多くの患者さんは治療前と同等かそれ以上の生活状態を維持しております。このように、重粒子線治療は手術のできない骨軟部肉腫に対する治療法の新しい選択肢の一つとなりつつあると言えます。現在、臨床試験から高度先進医療に移行中であります。
(重粒子医科学センター病院 今井 礼子、鎌田 正)

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