大阪府立成人病センター
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前立腺がん
  1. 1.前立腺について
  2.  A.前立腺の場所と働き
  3.  B.PSA(前立腺特異抗原)とは
  4. 2.前立腺がん疑いといわれた方へ
  5.  A.前立腺がんが疑われる契機
  6.  B.前立腺の診察方法
  7.  C.組織検査
  8. 3.前立腺がんの特徴
  9.  A.他のがんとの比較
  10.  B.前立腺がんは増えているのか
  11. 4.前立腺がんの症状
  12. 5.前立腺がんの広がり(病期)
  13. 6.前立腺がんの治療と副作用
  14.  A.ホルモン療法
  15.  B.手術療法
  16.  C.放射線療法
  17.  D.治療をしない方法
  18. 7.前立腺がんの治療法選択
  19.  A.早期がんの場合
  20.  B.前立腺をこえたがんの場合
  21.  C.転移したがんの場合
  22.  D.転移がんでホルモン療法に抵抗性を持つようになった患者さんへ
  23. 治療成績
  24.  1.手術の治療成績
  25.  2.放射線治療
  26.  3.ホルモン療法

1.前立腺について
    A.前立腺の場所と働き

    前立腺は膀胱の出口にあって、膀胱の出口から尿道を取り囲むようにある臓器です。大きさはくるみ大程度です。 前立腺は精液の液体部分の一部をつくっています。この中にPSAというたんぱく質が含まれています。

    B.PSAとは

    Prostate specific antigen(前立腺特異抗原)の略称です。前立腺でつくられる精液の中にたくさん含まれており、体外に出た精液が固まらないようにする働きを持っています(固まってしまうと精子が受精できません)。このPSAのごく一部分が血液の中に漏れ出て、血液検査で測定する事ができます。したがって女性や前立腺癌で手術をされて前立腺のない人では、PSAはほとんどゼロになります。血液の中に漏れ出るPSAの量は前立腺がん、前立腺肥大症、前立腺炎などの病気で増えます。この事を利用し、PSAは前立腺がん早期発見のマーカーとして、さらには治療経過を見るマーカーとして普及しています。 PSAの値として4という基準の数字がありますが、4以上が異常で、4以下が正常というわけではありません。PSAの値が高いとがんの可能性が高く、低いとがんの可能性が低いということであり、4以下でもがんが見つかる場合はありますし、20以上でもがんが見つからない事もあります。一般的にはPSAが4-10では10-20%に、10-20では20-50%の人にがんが発見されます。また前立腺がんとして治療を受けていらっしゃる患者さんにとっては、PSAはその治療が奏効しているかどうかの目安になります。手術で前立腺を全部とられた場合は、ゼロ(測定感度以下)が基準となりますし、ホルモン療法をされている場合、PSAは低ければ低いほどいいという事になります。 60歳前後の方100人にPSA検査をすると、約10人の方が4以上の値をとり、さらに検査をすると、その中の1-2人にがんが発見されます。こうして発見されたがんの多くは、早期がんであり、前立腺がん自体非常にゆっくりと進行する病気なので、命にかかわる事はまずありません。したがって健康診断でPSAが高いと指摘されても、深刻になられる必要はありません。安心してがんを専門にする泌尿器科医にかかって下さい。
2.前立腺がん疑いといわれた方へ
    A.前立腺がんが疑われる契機

    泌尿器科医にかかり、前立腺がんの疑いがあると指摘される経緯としては、人間ドックや検診などで無症状なのにPSAが高いと指摘される場合が最も多く、次いで何らかの理由で泌尿器科医にかかり、たまたまPSAを測定したところ高値であったなど、PSA高値が大半を占めます。前立腺がんそのものによる排尿障害や転移の症状から前立腺がんの疑いがあると指摘される事は少なくなってきています。 このようにして前立腺がんの疑いがあるとされた方の全員に直ぐ組織検査を行うわけではありません。高齢者の方や前立腺肥大症でPSAが高いと考えられる方には、定期的にPSAを測定し、上昇傾向があればその時点で組織検査を勧めています。ただし50-60歳台の若い方やPSAが10を超えられる方は、組織検査は受けておいたほうがいいと思います。

    B.前立腺の診察方法

    前立腺がんが疑われる契機として、多くはPSA高値であるという事は前述しましたが、直ちに組織検査をするわけではありません。肛門に指を入れて前立腺を触診し、さらに前立腺の大きさや内部構造を見るために肛門から超音波による検査をします。その上でがんの疑いの強い方に組織検査を受けるように勧めます。

    C.組織検査

    前立腺に直接細い針を刺して組織を取る検査です。無麻酔でするとかなり痛みを伴う検査なので、当では仙骨硬膜外麻酔といって、肛門周囲が軽くしびれる麻酔をし、ほとんど痛みなく検査を行っています。通常超音波で前立腺を観察しながら、がんの好発部位に向かって針を6-10箇所刺して組織を取ります。 検査に伴う合併症はほとんどありません。当センターでは年間200-300人の方に対してこの検査をし、約100人/年の前立腺がんを発見し、治療にあたっています。 組織検査で採取した検体を顕微鏡で観察し、がんの有無、がんがあればがんの悪性度(がんの顔つきの悪さ)の診断をします。時としてがんかどうかの診断がつきにくい場合があります。その場合は時間を経て再度組織検査をします。 組織検査の結果、がんが無くても100%大丈夫なわけではありません。発見されにくい場所にがんが存在する場合やたまたま針から外れた場所にがんがある場合がありますので、定期的にPSAの検査をし、PSAが上昇する場合は再度組織検査をする必要があります。
3.前立腺がんの特徴
    A.他のがんとの比較

    他のがんと大きく異なるいくつかの特徴があります。一つは、一般的に前立腺がんの進行はゆっくりしていること。二つめは、男性ホルモンがなくなるとがんが死んでいくこと。三つめは、がんの予備軍というべき潜在がんが多くの人に隠れていること。四つめは、国際的にみて欧米に多くて、アジアで少ないことなどがあげられます。二つめの特徴を生かして前立腺がんではホルモン療法が行われます。三つめにあげた潜在がんというのは、非常に小さいがんで、60-70歳台の方ですと、約3人に1人の割合で存在します。多くは一生持ったままで人生を全うされますが、その中の一部の方では、がんが大きくなり、前立腺がんとして発見されます。しかしながら検査技術が進歩し、見つける必要のない潜在がんが発見されている側面もあります。現在発見されている早期がんの約10%は潜在がんではないかという報告もありますが、残念ながら現在のところ潜在がんと治療の必要ながんを見分ける方法はありません。四つめの国際比較について、具体的には日本で発見される前立腺がんの患者さんの頻度はアメリカの約1/10で、死亡される患者さんの頻度はアメリカの約1/4です。人種、肉食中心の食文化や活発な性生活が前立腺がんの好発因子になっているようです。

    B.前立腺がんは増えているのか

    PSAによって今まで発見できなかった早期がんの患者さんが急増しています。当センターでも10年前と比較すると進行した前立腺がんの患者さんの数は変化しませんが、早期がんの患者さんが急増し、全体として3-4倍に増加しています。ところが進行し、死にいたるような前立腺がんという意味ではわずかに増えている程度です。したがってここ数年、前立腺がんが増えてきているといわれるのは、PSAのためで、本質は、食生活などの環境因子が欧米化してきていますので、徐々に増加してきているといったところではないかと思います。
4.前立腺がんの症状
    ここ数年の特徴として、無症状で発見される前立腺がんの患者さんが増え、約半数近くを占めます。PSAによって発見されるようになったためです。残りは、排尿に関連する症状が主で、症状だけからでは前立腺肥大症と区別がつきません。したがって尿の出が悪い方は一度PSAの検査をされる事を勧めます。がんが進行しますと症状が出ます。膀胱にがんが浸潤した場合は、血尿や排尿の障害が強く出ます。骨に転移しますと、転移した部分が痛む場合があります。
5.前立腺がんの広がり(病期)
    前立腺がんの広がりの分類方法として、TNM分類とABCD分類がありますが、専門的になりますので、簡単に3段階に分類する方法を示します。
    ・がんが前立腺にとどまっている状態(T1 T2、A B)
    ・がんが前立腺を超えている状態(T3 T4、C)
    ・転移がある状態(N1 M1、D)
    の3分類です。前立腺がんの広がり、組織検査の結果(悪性度)、PSAの値、年齢によって患者さんに合った治療法を患者さんと一緒に考えます。
6.前立腺がんの治療と副作用
    A.ホルモン療法

    男性ホルモンがなくなると前立腺のがん細胞が死んでいくことを利用して、男性ホルモンをさげてしまう治療や男性ホルモンの働きを阻止するような治療法のことをホルモン療法といいます。この治療法の特徴は、多くは効果が永久に続かない事と体にかかる負担が比較的少ない事です。したがって高齢者の患者さんや病気が進んでいるため手術や放射線などの根本的な治療ができない患者さんが対象になります。 治療の方法として、精巣を取ってしまう方法、月1回あるいは3ヶ月に1回注射をする方法などがありますが、効果は同じです。費用は睾丸を取ってしまう方法ですと入院費用を含め30万円前後ですが、注射をする方法では月6万円前後かかり長期間使用しますので、睾丸を取ってしまう方法よりもコストがかかります。もちろん健康保険がきくのでどちらの方法でも費用の1-3割の負担となります。 副作用は男性ホルモンが低下する事による症状が出現します。具体的には性欲が無くなり、勃起しなくなる、汗をよくかく、手指がこわばる、体重が増えるなどで、長期間経過すると骨そしょう症や筋力の低下なども起こります。

    B.手術療法

    前立腺を全部とってしまう治療です。この病気にかかられた患者さんの多くは手術療法を希望されますが、比較的早期でないと手術でなおすことはできません。PSAが20-30ng/mlを超えるような患者さんやがんに伴う症状があるような患者さんでは、再発する可能性が高くなります。また70歳以上の人で早期がんであれば、手術をしなくても比較的長生きする事ができますので手術療法はやはり元気な若い患者さんが対象になります。 手術の中ではやや難しい部類に入ります。手術は通常3時間前後かかり、数百ml出血します。入院期間は3週間前後必要です。 手術の合併症は主に尿漏れとインポテンツです。手術を受けていただいた患者さんの5-10%の人で少量の尿漏れが続きます。またインポテンツは勃起神経温存手術をしなければほぼ必発し、温存すれば約半数の方が回復します。(手術の治療成績の項に詳述)

    C.放射線療法

    前立腺に外から放射線を当てる方法と、前立腺に針を刺して内から放射線をあてる方法があります。外から放射線を当てる方法が一般的で、内から放射線をあてる方法は、一部の施設でしか行われていません。早期がんの場合、手術に比べればなおす効果は落ちますが、少し進行したがんでも効果があり、また体の負担が少ないため、高齢者にも安全に治療することができます。 通常1日1回数分間照射し、連続で約1月半かかかります。通院での治療が可能です。 放射線療法の合併症には照射中に起こるものと照射後何ヶ月もたってから起こるものがあります。照射中に起こる合併症は、膀胱炎のような症状と痔のような症状で、通常終了後1-2ヶ月でなおります。照射後何ヶ月もたってからおこる合併症として、排便、排尿時の出血や直腸の潰瘍形成などがあります。治療を要する重症なものの頻度は数%以内です。またインポテンツも約半数に認められます。

    D.治療をしない方法

    前立腺がんは進行が遅く、とくに早期がんで悪性度の低い患者さんでは、治療しなくても、そのがんが転移し死に至るまでには長い年月がかかります。つまりがんの状態によっては、治療しなくても問題のない可能性があるからです。またPSAによりがんをある程度モニターする事ができるので、しばらくの間治療しなくて、すこし進行した段階で治療することも可能です。このような考え方が広まってきた理由は、PSAにより早期がんがたくさん見つかるようになり、特に高齢者の早期がんに対しては本当に治療が必要なのかという疑問が出てきたためです。この方法の長所は癌が発見される前と同様の生活が送れることです。ただし治療をせずに様子を見る事のできる患者さんの条件は、高齢者の早期がんで、PSAが低く、組織の悪性度も低いことであり、この条件に合致する患者さんは少ないのが現実です。また治療をせずに様子を見ている患者さんの中に、途中でPSAが上昇し治療が必要になってくる場合があります。
7.前立腺がんの治療法選択
    他のがんでは年齢に関係なく、早期がんであれば大体手術ということになりますが、前立腺がんの場合は、進行がゆっくりしているのと、手術以外の治療法がありますので、同じ早期がんでも年齢によっては、治療しない患者さんから手術を受けられる患者さんまで治療法がバラエティに富んでいるのが特徴であり、患者さんと医者とよく相談し、患者さんに合った治療法を選択します。

      A.早期がんの場合

      手術、放射線、ホルモン療法、治療しない方法の4つの方法があります。早期がんでも潜在がんから進行がんに近いものものまで幅が広く、そこに年齢という要素を考慮し4つの選択肢から選ぶことになります。一般に70歳以下の患者さんには、手術を勧めます。70歳前後の患者さんには手術あるいは放射線を、75歳を超える患者さんにはホルモン療法を中心に放射線を勧める場合もあります。PSAが低く、組織の悪性度も低い場合には、高齢になるほど治療しないで様子を見る患者さんが多くなります。

      B.前立腺をこえたがんの場合

      手術、放射線、ホルモン療法の3つの方法があります。これらを組み合わせて治療することもあります。一般にがんが前立腺をこえた場合、手術あるいは放射線単独で完全に治す事は難しくなります。したがってホルモン療法を前後にはさんで治療することが多くなります。

      C.転移したがんの場合

      ホルモン療法が中心になります。まれに抗がん剤を使った化学療法を行う事もありますが、標準的治療ではありません。転移した部位の痛みをとるために放射線をあてる場合もあります。

      D.転移がんでホルモン療法に抵抗性を持つようになった患者さんへ

      遺伝子治療を含めいろいろな治療法が試みられていますが、長生きにつながる治療法は現在のところありません。日本の医師はこのような患者さんを失望させまいと、予後に対するインフォームドコンセントを避ける傾向が強く、患者さんも医師からそのような説明がないため、治療を受ければなんとかなると思っている方が多くいます。そのような患者さんの中には、治そうと思うあまり体に負担のかかる治療を受け、かえって寿命を縮める方もいるのが現実です。転移がんでホルモン療法に抵抗性を持つようになった患者さんに重要な事は、症状に応じて的確な対症療法をしてもらう事です。適切な痛み止め、放射線治療、ステロイドホルモンなどを駆使して対症療法を行う事により、余生を楽しみ比較的長生きされた患者さんもいます。

治療成績


    2001年12月現在までに当センターで治療した患者さんは、1200人に達し、毎年新たに約100人の前立腺がん患者さんの治療を行っています。50%が早期がん、30%が前立腺を超えたがん、20%が転移をした状態で発見されます。治療の内訳は、手術が30%、放射線が20%、ホルモン療法が40%、無治療が10%です。早期がんの患者さんで比較的年齢の若い方のほとんどが手術を受けられ、前立腺を超えたがんの患者さんでは半数が放射線を受けられています。
1.手術の治療成績

    手術件数は年間約30人で、他病院からの紹介患者さんも多く、現在まで約300人の患者さんの手術をしてきています。当センターの特徴は、豊富な経験を元に、非常に安全でかつ合併症の少ない手術が短時間でできる事です。手術時間は約2時間30分、出血量は平均650ml、自己血(あらかじめ手術用に患者さん本人の血を800ml採取します)を用いますので、他人の血を入れることはまずありません(過去5年間で1例もありません)。
    手術の後遺症は大きく2つあり、尿漏れとインポテンツです。尿漏れは、術後早期では、多くの方が漏れ、失禁パンツやパッドが必要です。3ヶ月もすればほとんど漏れなくなり、パッドが不要になります。しかしながら一生少量の尿漏れが続く患者さんもいます。その頻度は70歳以下では数%、70歳以上では20-30%となります。インポテンツは神経温存手術をしない場合はほぼ必発ですが、神経を温存すれば約70%の方が勃起可能となります。ただし勃起時のペニスの硬度は不十分な事が多く、その際には薬が助けになる事もあります。
    治療成績は1990年以降、早期がんの患者さんでがんにより死亡された方は一人もいません。
2.放射線治療

    年間約20人の治療を行っています。2001年12月現在まで約160人の患者さんに放射線治療を行いました。放射線治療は、体外から照射する外照射と体内に照射針を挿入する組織内照射の2種類の方法を行っています。外照射は前立腺精嚢に70グレイ照射します。1回(1日)に2グレイ、35回(7週間)照射します。1回にかかる時間は2-3分で、外来通院でできます。組織内照射は約1週間の入院治療になります。会陰部より照射針を10本前後以上挿入し、5日間照射します。
    合併症は、放射線療法照射後期、照射後1-2ヶ月の間膀胱炎のような症状と痔のような症状が起こります。照射後何ヶ月もたってからおこる合併症として、排便、排尿時の出血や直腸の潰瘍形成などがあります。当センターでも人工肛門を必要とした患者さんが1人、入院治療を要した患者さんが2人います。
    治療成績は、前立腺を超えたがんの患者さんでは、手術と同等あるいはそれ以上の成績です。当センターでは前立腺を超えたがんの患者さんの約半数がこの治療を受けられています。
3.ホルモン療法

    多くの患者さんは、LHRHアゴニストを月1回注射する方法を選択されています。転移を有する患者さんの場合、2年で約半数が、5年で3/4の方が、薬に抵抗性を持つようになり、その後数ヶ月から数年で不幸な転帰をたどられます。転移のない患者さんの場合は薬の反応性はよく、5年後でも約半数の方は効果が持続します。



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